読点を減らせば文章力が上がる

 僕は声高にそう主張したい。

 たとえスラムダンクのオープニング曲が流れたとしても、僕は「読点を減らせば文章力が上がる」と叫びたい。

 世界の中心でも「読点を減らせば文章力が上がる」を叫ぶつもりだ。

 文章力とは何か。読点とは何か。

 それを知ればなぜ僕がこうも主張するのか、わかってもらえるだろう。

 

 そもそも文章を書くということは、情報整理との戦いだ。

 文章は一本の線なので、読者には一つずつしか情報を渡せない。かといって伝えたい情報を一度に伝えきるのは難しい。

 だから上手く物事を伝えるには、一度に渡す情報の適切な量と順番を考なければならない。それが文章を書くということであり、その能力こそが文章力である。

 

 そして読点とは、読者依存だと思っていい。

 誰もが知っていることだが、日本語の読点は文章内の「、」という記号である。

 では「、」自体の意味は何か?

 そんなものはない。「、」は情報の空白なのである。

 しかし空白といえども、役割が何もない訳ではない。リズムを整える役割もあれば、文を区切って情報を正確に伝える役割もある。

 さらに最大の役割として、二つの文を繋ぐという役割がある。

 通常、読者の思考は句点である「。」で区切られた一文ごとに途切れる。だから文章を書くほうはその一文に収まるように情報を整理していく。だが句点で区切らず読点で二文を繋ぐと、読者の思考は途切れることなく働き続ける。句点を読むまで休まない。

 すると読者の思考の一区切りにおいて伝えられる情報が多くなる。それによって情報整理はより楽になり、またさらなる効率化も図れる。

 ただし一文の中で使えば使うほど、読者の思考を本来よりも長く稼働させることになる。つまりは読者の負担になるのだ。そうなると内容に対する読者の理解力を奪っていくことになり、伝えたいことが上手く伝わらなくなってしまう。これでは本末転倒である。

 あくまで読点は読者に少しだけ頑張ってもらうことで、結果として読者に伝わりやすくして負担を軽減するというものなのだ。

 

 しかし文章力のない人はこの本末転倒をやってしまいがちだ。伝えよう伝えようと頑張るあまり、読点をたくさん打っているのだ。

 読点をいくつも打ちたくなるのは、情報整理が上手くいっていない場合がほとんどだ。要するにこんがらがった情報の整理を放棄し、読者の思考時間を無理矢理伸ばすことで伝えようとしているのだ。だから読点を増やす前に、まず情報整理をやり直すべきなのである。

 

 では一文に何回まで使っていいのか。

 一回だ。一回しか使ってはならない。

 二回でも危険な水準であり、三回以上は相当に危険だ。

 もちろん文章力の高い人ならば、二回以上使っても全く問題はない。なぜなら文章力とは情報整理の能力なので、そういう人が情報整理を放棄して読点を使うことはあまりないからだ。良い文章を書くことだけを考えればいい。

 しかし文章力に自信のない人ならば、絶対に一回までにしておいたほうがいい。二回以上使いたくなったら、文を練り直すか二文に分けるのだ。一文に二回以上使ったほうが良い文章になることも多いだろうが、一回しか使わずにいて支障が出ることなど滅多にない。情報整理と向き合う癖を付けるためにも、まとまった文章を書くときには一回を死守すべきだ。

 

 自信がないというほどでもない人でも、読点を二回以上使う際にはよく注意したほうがいい。どのような場合においても情報整理は必須であり、意識的に確認するのは悪いことではない。僕自身もこのブログのような手を抜いた場所以外で二回以上使う場合は、かなり注意を払っている。(ただまぁ流石にこの文章は一回までを遵守している)

 自分の文章力がどれくらいなのかわからない人は、とりあえず一回までに抑えながらまとまった文章を書いてみるといい。辛ければ辛いほど情報整理の能力が低いということであり、文章力が低いということである。

 

 頭の切れる人はもう気づいているだろう。実はもっと直接的に情報整理の能力を鍛える術がある。

 読点の全くない文章だ。

 しかしそれでいて自然に読めてしまう文章を書くのだ。読点を使っていないことに読者に気づかれないくらいだと理想だ。

 もちろん小説なんかだととんでもなく大変になってしまう。はっきり言って無理である。しかしブログなら柔軟な書き方ができるので無理ではないはずだ。もしくはツイートだと難易度も低くなってちょうどいいかもしれない。

 読点を使えないということは読者の思考を延長することが全くできないということだ。すると必然的に情報整理の力で文章を綴るしかない。おまけに自然な文章にするためには接続詞や短文も効果的に使わないといけない。リズムにも気を使うし文末表現にも敏感になる。鍛えられる能力は非常に多いのである。

 

 ただ、そうは言っても全く読点を使わない文章を練習する機会なんてなかなか作りづらいものだ。ごく普通の日常における実現は難しい。絶対に一回までにするというルールも、ブログのような媒体以外では実施しづらいだろう。

 そういうわけで日常において文章を書く際に意識するための、現実的なルールも提示したい。それは読点の使用をなるべく避け、使ったほうが良い文章になりそうならしぶしぶ使うというルールだ。簡単に言ってしまえば「読点を減らす」という意識を持つということである。

 これならば無理のない範囲で情報整理を意識することになり、ひいてはその能力が向上していくことにも繋がる。それは文章力の向上を意味する。

 つまりは「読点を減らせば文章力が上がる」ということなのである。

 

 普通の人ならばこれ以上簡単に文章力を上げる方法はない。ただ分析しただけの技術論に惑わされてはいけない。その多くは正しいが、分析結果は意識の中に携えていけるものではない。実用のために総合し、単純化された行動原理を持ち歩け!

 だからせめてこの言葉だけでも覚えてほしいと思っている。

 

 ——読点を減らせば文章力が上がる……

 

 ——読点を減らせば文章力が上がる……