「LIPS」というコスメ系サービスがすごい
2017年にリリースされたサービスで「LIPS」というのがあるのだが、これがなかなかすごい。でもまだあまり知られていないし、ネット界隈の物知りおじさん達も全然話題に上げない。11月1日の時点では、はてブ3。それだってつい先日3になったばかりで、1月のリリースから半年近くはずっと0。
しかしまぁそれも当然である。「LIPS」はコスメ特化のサービスなのだ。 lipscosme.com 人間のオスは30歳を超えてくると、「コスメ」と聞いてもそれが化粧品関連のことだと理解するまでに2秒かかるようになる。そういう習性だ。だからコスメ系サービスへの感度なんてすこぶる悪く、間違いでも起こらない限りスルーしてしまう。
しかし僕はネット界隈の物知りおじさん達とは違い、スルーしなかった。間違いを起こしたからだ。
ある時、僕はこんな感じの情報を目にした(気がした)。
「いま若い女子達に LISP コニュニティが大人気!」
いやいや、ちょっと待て。自分の知っている LISP はちょっとコア向けのプログラミング言語だぞ。一体何が起こってるんだよ。狼狽せずにはいられなかった。
Google先生に聞いてみたところ、やはり LISP女子 とかが流行っているなんてことはなかった。そして先生は僕を傷つけないように、 LISP の検索結果にさりげなく LIPS を混ぜてくれた。そうして僕はLIPSを知ることになった。
LIPSのここがすごい
イケてるCGMならば研究してみよう!と軽い気持ちでLIPSをチェックしてみることにした。僕はただの男性なので、コスメサイトに関する知見はまるでないのだが、どうやらLIPSはすごそうだった。
普通にすごいところ
まずぱっと見て思ったのは、比較的新しいサービスなのに、普通にやるべきことをやっているのがすごい。1つ1つは特別なことじゃなくても、寄り道せずにそういうものをちゃんとやるのは簡単ではない。開発者の頭の良さを感じる。
挙げたらキリがないのだが、たとえばユーザーの流入と継続に関してなら、以下の点がしっかり作られているのを感じる。
別に大した要素ではないのだけど、この流れを強く意識してデザインされているように見えるし、実際それがちゃんと実現されていると思われる。わかっちゃいるけど難しいんだよね、そういうの。
尋常じゃなくすごいところ
- ユーザーの欲求が見えている
これに尽きる。「頭がいい」とかそういうのを超えた能力を感じる。
閲覧ユーザーの欲求
まずは投稿をしていない、閲覧しているだけのユーザーの欲求について考える。
- 本当に参考になる人のレビューだけ見たい
- 実際の写真によって具体的なイメージを掴みたい
- コスメの使い方の解説を見たい
などが挙げられそうだ。これらの3つの欲求に対し、LIPSの仕様はまっすぐと応えている。
- 自分にとって本当に参考になる人のレビューだけ見たい
- レビューが画像とセットなので、参考になりそうかを画像で判断できる
- 人ごとにレビューがまとまっているので、自分にとって参考になる人のページでは、全てのレビューが参考になる
- 実際の写真によって具体的なイメージを掴みたい
- レビューが画像とセットなので、ファンデーション等では実際に肌に合わせてみた写真などが添付される
- コスメの使い方の解説を見たい
- レビューが画像とセットなので、肌との相性でなく使い方が重要なものでは、使い方を示した画像などが添付される
3つの欲求に対し、判断が必要になる場面は1回。「誰が参考になるか」の判断だけだ。それ以降はいちいち物事を判断しなくていい。しかもその判断は画像で出来るので、いちいち文章を読まなくていい。
ではその欲求を最大手の@cosmeに対応させてみるとどうか。
- 本当に参考になる人のレビューだけ見たい
- レビューが参考になるかどうかは、文章をしっかり読んで判断する必要がある
- 商品ごとにレビューがまとまっているので、レビューごとに参考にしていいかを判断する必要がある
- 実際の写真によって具体的なイメージを掴みたい
- 肌に合わせてみた写真も多いが、大量の商品の写真から探し出し、自分にとって参考になるか判断する必要がある
- コスメの使い方の解説を見たい
- 解説した画像も多いが、大量の商品の写真から探し出し、自分にとって参考になるか判断する必要がある
とまぁこんな感じである。欲求に対して判断の場面が多すぎる。だから、
- 本当に参考になる人のレビューだけ見たい
- 実際の写真によって具体的なイメージを掴みたい
- コスメの使い方の解説を見たい
という欲求を持っている人にとっては、@cosmeよりLIPSのほうが断然いいのだ。
となるとその欲求を持っている人がどれくらいいるのかが問題になるわけだが、実際のニーズを元に開発を始めたらしいし、結構いるのだろう。急成長していることもその裏付けになりそうだ。だからあとは潜在ユーザーにリーチさせれば勝ちみちたいなところがあるので、これからがっつり広告打って一気に認知度が上がってスターダムを駆け上がるかもしれない。
投稿ユーザーの欲求
LIPSはCGMであるため、コンテンツを投稿するユーザーがいないといけない。ではそのユーザーはどういう欲求を持っているのか考えてみる。
- 良いコスメを広めたい
- 承認欲求を満たしたい
- コミュニケーションしたい
などが挙げられる。投稿者のこういう欲求はどこのサービスでもたいていちゃんと応えているものだが、LIPSは承認欲求の満たし方が優れている。
コスメという名目
投稿者は、コスメのレビューという名目で投稿する。もちろんそれは間違っていないのだが、他のレビューサイトとは承認のされ方が少し違う。
他のレビューサイトでは、レビューへの承認というのは、「いかに参考になるか」である。要するにテキストの価値への承認であり、その奥にいる人間を褒めているという感じが薄い。
一方でLIPSは、ユーザーごとにレビューがまとまっているので、レビューの奥にいる人間を強く感じる。だからレビューへの承認が、投稿したユーザーのセンス・知識・ルックス等に向く。投稿者にとってみれば、投稿はコスメレビューという名目だが、承認は自己へ向けられるのだ。これは非常に強力なインセンティブとして働くだろう。LIPSにレビューを投稿して承認されるのと、@cosmeにレビューを投稿して承認されるのでは、快楽のレベルがまるで違ってくるはずだ。
女性からの承認
レビューをした個人への承認が強いというのが優れた点だが、その承認の質もまたいい。
LIPSはコスメ特化のため、基本的には承認を与えるのは女性ばかりで、男性はほとんどいない。これがいい。それよって 男性から性的な対象で見られる ということがないからだ。多くの女性が、求めていないのに 男性から性的な対象で見られる ことにストレスを感じるのは想像に難くない。かといって自分のことは認めて欲しいと思っている。しかし現実には、若い女性が性的な目で見られないまま大きな承認を得るのは難しい。大きな承認を受けている若い女性は多くの場合、性的な目に気付かないか、開き直っているか、悩んでいる。
それはコスメ分野でも同様で、YouTubeでメイク動画を上げようと、インスタで新作コスメを試してみた写真を上げようと、承認されて注目されてしまったら、必ず性的な目で見る人間が現れる。ただ可愛いモノ・使い方・振る舞いなんかを認めてもらいたいだけなのに、それが「性的な情報」として消費されてしまう。それがどれだけ哀しいことか。そして気に入っていたサービスでも、そのせいでいつの間にか居心地が悪くなってしまう。
LIPSではコスメ特化という男性避けがあるため、たとえ大きな承認を受けて注目されても、性的な目で見られることはほぼないと思われる。注目される立場にいる若い女性に、居心地の良さを提供し続けられるのだ。コスメという分野に限られてしまうものの、現代社会が抱える問題を解決していて素晴らしい。
今後の成長
以下の点からLIPSはこれからどんどん成長していくと思う。
インスタ女子が大量流入
投稿者の承認欲求の満たし方が優れていることにより、インスタで似たようなことをやっている人達がどんどん流入してくることが予想される。そうなるとフォロワーもどんどん流入してくれて、LIPSのユーザーはますます拡大するだろう。現時点でも流入しているだろうが、LIPSのポテンシャル的には今の比じゃないレベルで流入するはずだ。
しかし問題は、そのインスタ女子を性的な目で見ていた人をいかに排除するかだ。LIPS開発陣はきっとうまい具合に排除できる方法を考えているに違いない。
メイク動画YouTuberの流入
メイク動画YouTuberも、インスタ女子と同様に大量に流入し、LIPSを盛り上げるだろう。性的な目で見ていた人をうまく排除しないといけないのも同様だ。
しかしこちらは、YouTubeでメイクの一連の流れを説明し、LIPSで各コスメの詳細を説明するという使い方になってくるのではないだろうか。そうなると、YouTubeとの親和性を高める仕様になっているとより使われそうである。
たとえば、指定したYouTube動画の指定した秒数とレビューを対応させることが出来たらいいかもしれない。しかしそれはそれで様々な問題が想定されるのでそのまま実装するのはまずそうだ。ちょっとここらへんのニーズに関しては、僕自身が普通の男性なのであまり把握できていないのでなんとも言えないがw
ともかく、現在メイク動画YouTuberが各コスメを説明する際に、説明文等で何か面倒くさいことをやっているはずだ。それを楽にしてあげる機能をLIPS側で実現できれば、メイク動画YouTuberにLIPSが普及していくんじゃないだろうか。
それが可能なら、メイク動画探しもまずLIPS内から行うのが当たり前になるかもしれない。まぁこれもLIPS開発陣はいろいろ考えているだろうが。
資金調達
LIPSは既に約8000万円もの資金調達をしている。一般的にはまだそこまで知られていないが、これから一気に若い女性にとっての「当たり前のアプリ」にまで駆け上がっていくことが予想される。
中の人がすごい
僕がここまで成長を確信しているのは、何よりも中の人のすごさを感じるからだ。中にいる誰がすごいのか全く知らないのだが、こんなにしっかりと人間の欲求にフォーカスできる人間は滅多にいない。事業には不測の事態が付きもので、成功する保証なんてないのだが、ここまで人の欲求が見えている人間がやっているのなら、絶対に成功するんじゃないかという気になる。
それほどまでに、欲求にフォーカスする能力というのは強い。僕はLIPSの痕跡を見て、LIPSが見ているユーザーの欲求を推測しただけだ。直接見たわけじゃない。
ここで改めてLIPSと@cosmeを見てほしい。
LIPS[リップス] - コスメ・メイク・化粧品の口コミ検索アプリ
この2つは求められるものが違うだろうが、LIPSのほうが一歩先を見ているように感じてしまう。
5年後のLIPSは一体どうなっているのだろうか。期待せずにはいられない。
おわりに
イケてるCGMを研究してみよう!と思ったものの、これは意外と骨が折れる。そもそもコスメに対する知見も何もないのにLIPSを選んだのは無謀だったかもしれない。
勉強になるので続けたいが、次回からはもうちょっと軽めにやってみたい。