マストドンの真の強みはクラスタの可視化である

 近頃急にマストドンmastodon)なるものが流行り出した。以前から名前は聞いていたものの、僕は流行り始めからやや遅れた先週末にマストドンの盛り上がりを知った。
 マストドンTwitterを模倣したものであるが、調べるほどにマストドンはすごいものであるように思えた。
 そもそものTwitterの基本仕様はとてつもなく完成度が高く、もはやインフラとしての使用に堪えうるレベルにまで達している。となると、もはや本当のインフラに近づいていくのは必然だ。メールのように、決められたルール従ってみんなで乗っかるものになっていくのだ。
 その潮流に乗った大きな船としてマストドンがやってきた。

 

 ただ、ユーザーにとっちゃそんなことはどうだっていい。技術的な新しさだとか歴史的経緯だとか信用度だとか、そんなことは大きな問題ではないのだ。
 何が魅力か。ほとんどそれで決まる。

 

 じゃあ何がマストドンの魅力なのかと言えば、クラスタの可視化だ。インスタンスごとに何らかの方向性を持つようなアーキテクチャとなっており、いわばインスタンス=クラスタの性質を持つ。だからインスタンス内のローカルタイムランを見れば、クラスタの輪郭を簡単に確認できる。また、新規参入者でも発言すればそのインスタンスのローカルタイムラインに流れ、そのクラスタから存在が認知される。これは滅茶苦茶強い。
 Twitterクラスタは、基本的にはTwitter以外の場所での繋がりが基盤となっていることが多い。だからTwitterからクラスタ内の人間や発言を確認しようとしても難しい。そしてクラスタの人間をたくさんフォローしたとしても、新規参入者のつぶやきがクラスタから認知されることも滅多にない。

 

 クラスタが可視化されると、登録してから楽しさを感じるまでの流れもスムーズになる。
 Twitterに登録した場合、最初に有名人をあれこれフォローしろとうるさい。なぜそうするのかというと、最初に5人だか10人だかをフォローしたユーザーは継続率が高いというデータがあるからだ。それはつまり自分が興味を持つ人を何人かフォローしないと、継続に値するほどTwitterの楽しさがわからないということである。
 一方でマストドンは有名人をフォローしろだなんて言ってこない。必要ないからだ。インスタンス内のローカルタイムラインを見れば、クラスタの活動、つまり自分と興味が一致する人達の発言で満たされている。もうそれだけでTwitterが必死になって伝えたかったTwitterの面白さの半分は伝わる。ローカルタイムラインから好みに合った人をフォローするのも難しくないので、もう半分もすぐに伝わってしまう。うん、強い。

 

 インスタンス=クラスタというマストドンの性質を考えると、既にTwitter上に存在するクラスタを呼び込むと、たぶん強いインスタンスになる。活発なクラスタを呼び込むことで、活発なインスタンスを生み出せるのだ。Twitter上でも活発なクラスタであっても、クラスタ内交流の相性はマストドンの方が高く、ローカルタイムラインによって新規参入もしやすい。クラスタインフルエンサーをうまく呼び込むことができるかが鍵だ。
 逆に特定のクラスタを呼び込まないインスタンスは、強みを活かせないので長期的な運営が難しいだろう。黎明期なら「マストドン黎明期クラスタ」とでも言うべきものであるが、熱が冷めて日常のつぶやきが大半を占めるようになった時、クラスタが瓦解する。そうなってしまうと開墾し放題だったのが一転、Twitterと同じ土地を奪い合うことになる。倒し甲斐のある相手だが、とてつもなく厳しい戦いになる。

 

 そんなことを考えながら日本のインスタンスはどうなってるのかなと思って調べてみたが、この盛り上がりに対して既存のクラスタを呼び込んだ場所があまりにも少ない!

 

日本のマストドンインスタンスの一覧


 なんでだよ!
 もっと既存クラスタインスタンス化進めろよ!
 マストドンTwitterの墾田永年私財法だろうが!

 

 と叫びたくなるくらいマストドンの強みを活かしている人が少ないのである。マストドンの強みを僕がまるっきり勘違いしているのだろうか。それともインスタンスを立てている人の多くがマストドンの強みについて考えていないのだろうか。
 もし後者だったら面白いことになりそうなので、採算度外視でインスタンスを立ててみることにした。

 

 まずは正攻法として、既存のクラスタを呼び込む。オリジナル小説を書くクラスタにはすぐリーチできそうなので、彼らのためのインスタンスを作った。
 シンプルなkakudon.comというドメインが空いていたので、カクヨムあたりが取る前に取ってしまった。

 

 https://kakudon.com
 ※近日公開予定

 

 クラスタを呼び込むと言っても、ただ連れてくるだけじゃ駄目だ。参加者の振り分けが適切であるからこそ、クラスタとしての純度が高くなって面白くなる。
 だからそのクラスタの人に「自分のためのインスタンスだ」と感じさせ、同時にそのクラスタと親和性が低い人に「自分のためのインスタンスではない」と感じさせないといけない。つまりは明確なターゲティングと強い排他性である。
 排他性が強すぎると当然ながら人が集まらなくて全然面白くならないが、小説を書く人はそれなりに多い。とりあえずオリジナル小説を投稿したことのある人限定という、強めの排他性に設定してみた。
 インスタンスの人数が増えた時に、一瞥して自分の好みに合うかどうかを判断できないとスケールしないと思ったので、プロフィールに好きな作家か作品を書いてもらうようにした。こうして小クラスタを内包し得る仕組みにすれば、大きなクラスタに育っても瓦解しないのではないだろうか。

 

 そしてここからが本題。
 マストドンインスタンス=クラスタという性質から、もう1つのやり方も考えられる。
 それはインスタンスの方向性を明確にすれば、今まで存在しなかったクラスタでも作れちゃうのではないかということだ。
 コミュニティというのはある程度恣意的に形成されるものではあるが、上下関係がない場合には、その文化においてはやはり自然の成り行きで形成される部分が多い。だから「自分の理想の場」なんていうのを思い描いても、そういう場を見つけたり作ったりすることは滅多にできない。
 ところがだ、インスタンスの方向性はかなり作り込むことができる。となると、クラスタが持つ文化もそこそこ意図的に作れるのでないかと考えた。

 

 僕は以前から、オリジナルのWebサービスを作る人達のコミュニティが欲しいと思っていた。技術的なことじゃなく、面白いものを作ろうとする意志で繋がる場である。
 そういう人達の小さな集いはそこらじゅうにあるものの、それは見知らぬ人が気軽に参加できるような場ではない。それでは駄目なのだ。たとえばたった一人で誰とも交わらず開発を進めてきた人が、ふと同じ道をゆく人と話したかった時に話せる場所じゃないと駄目なのだ。リアルでの繋がりに依存せず、意志のみに依存する場が欲しいのだ。
 インスタンスの方向性をうまく設定して、なおかつ人を集めることが出来たら、もしかしたらマストドンでそういう場を作れるんじゃないか。
 そう思うと、今すぐ作らなきゃいけない気がした。

 

 oriwebdon.com

 

「オリジナルのWebサービスを作る人のためのMastodonインスタンス」を強引に略し、oriwebdon.comというオリハルコンみたいな語感のドメインにした。オリジナルのWebサービスを作る人のクラスタという概念を刷り込む役割もあるので、すっきりしたドメインは放棄した。
 また、知らない人に質問や助言をいきなり投げる行為のハードルを低くするためのルールを設定した。マニュアルに従って何かを制作するのではなく、自分の作りたいものを作る場合には、常に何かに悩まされる。そんなとき気軽に情報をくれる場があれば素敵じゃあないですか。そして自分が持っている情報を気軽に提供して貢献できたら素敵じゃないですか。そんな場所が欲しいんですよ。

 

 というわけでオリジナルのWebサービスを作る人は、是非オリWebクラスタインスタンスへ参加してください!

 

oriwebdon.com

 

追記

 技術的な問題でああだこうだ言っていた人でさえ、だんだんマストドンの凄さを実感してきたようだ。

cpplover.blogspot.jp

 

 マストドンの強みは新しいインターネットの境地を切り拓いていくのではないだろうか。